多くの中小企業が請求業務にクラウド請求書サービスを導入していますが、サービスの選定で「機能の有無」だけを基準にすると、「思っていたものと違った」「あまり効果が出なかった」といった問題に直面しがちです。同じ機能名でも、想定している業務や設計思想が異なると、日々の業務体験と成果は大きく変わります。
本記事では、クラウド請求書サービスを選ぶ際に「機能の○×」に偏らず、「業務の想定」と「システム設計」のフィット感で見極める考え方をまとめます。
クラウド請求書サービス選定の基本姿勢
クラウド請求書サービスは、単なる機能の集合ではなく、特定の業務フローや組織の前提に合わせて設計されています。そのため、同じ機能名であっても、想定している使い方や仕様が大きく異なることがあります。
その結果、機能ごとの○×では要件をカバーしているものの、いざ運用してみると、やりたいことが実現できなかったり、業務フローに合わず手作業が増えたり、例外対応が煩雑になったりすることがあります。
そのため、安易に機能の○×で選定していくのではなく、以下のステップで確認することが重要です。
まずは自社の業務要件を明確にする
請求書の作成・発行はもちろん、その周辺の請求業務を確認し、どのような業務が存在して、誰がどのように行っているのかを整理します。これは、選定にあたっての「事前準備」という位置づけです。これにより、後から抜け漏れが出ることを防ぎます。
また、この際の大事なポイントとして、単に業務の名称の一覧を作るだけでなく、具体的な業務内容やフローを明確にすることが重要です。ここの解像度が粗いと、後の選定でミスマッチが発生しやすくなります。
サービスの想定業務と設計思想を把握する
検討対象のサービスサイトを確認したり、ヘルプ・動画といったサポートコンテンツを確認したり、可能であればトライアルを利用したりして、サービスがどのような業務を想定しているか、設計思想を把握します。これにより、自社の業務要件とどの程度フィットするかを評価できます。
この工程で大事なのは、単に機能の有無を確認するのではなく、「このサービスはどういう業務を想定して設計されているか」「それがどの程度自社の業務とギャップがあるか」を把握することです。
どれだけ有名なサービス・評判のサービスであっても、基本的な設計思想が合わなければフィットしません。
機能の○×で判断しない理由
機能比較表は便利ですが、同じ機能名でも仕様の詳細はサービスごとに異なります。表面的な一致で判断せず、実際の仕組みを理解することが重要です。
同じ機能名でも想定業務が違うと仕様は変わる
実際にサービスを運営していると、多くの方からお問い合わせいただくので、1つの用語について本当に多様な解釈・期待値があることを痛感します。
たとえば、「boardは案件単位に書類を管理していく仕組みです」という説明に出てくる「案件」について、それぞれの職種・業務・バックグラウンドによって、捉え方が変わることがあります。
「原価管理」についても、製造業の方は材料費・労務費・経費の集計をイメージし、サービス業の方はプロジェクトごとの人件費配賦や外注費をイメージするなど、多様な捉え方があります。
サービスを探している側の視点で考えると、自社のやり方・解釈が「当たり前」になってしまいがちですが、実際には多様な解釈があることを念頭に置き、サービス提供側の想定と自社の期待値のギャップを丁寧に確認することが重要です。
比較表の○×では見えない「差」
実際の使い勝手・操作感・業務とのフィット具合などの設計の細部は、機能表には現れにくいポイントです。
実務の解像度を高く持って設計されているサービスは、実際に使ってみると、細かな部分での使い勝手が良く、業務にスムーズに馴染むことが多いです。一方で、「○○という機能を有していること」を目的として開発しているケースも見受けられ、そのような場合、実務では不十分なことがあります。
このように、機能の有無では測れない部分が本質的に重要であるため、設計思想のフィット感を重視して選定を進めることが望ましいです。
設計思想のフィット感を見極める
では、どのように「設計思想のフィット感」を見極めればよいのでしょうか。
やはり実際にサービスを試してみることが最も確実です。トライアル期間を活用し、自社の実際のデータや業務フローで操作してみることで、設計思想のフィット感を具体的に評価できます。
その際、違和感なく自然に操作できるようであれば、かなりフィットしていると考えられます。また、詰まるところがあっても、ヘルプやサポートの手を借りつつ、うまく運用に載せられそうであれば、十分にフィットしていると判断できます。
一方、あまりにも多くの部分で詰まったり、サポートを受けても解決が難しかったりする場合は、設計思想が合っていない可能性が高いです。その場合は、他のサービスを検討することをお勧めします。
導入前にトライアルできない場合は、それだけでリスクが高いため、慎重に検討する必要があります。
まとめ
クラウド請求書サービスの選定は、機能の○×を埋める作業ではなく、業務の想定とシステムの設計思想が自社に合うかを見極める作業です。
そのためには、まず自社の業務要件を明確にし、サービスの想定業務と設計思想を把握することが重要です。機能比較表に頼らず、実際にサービスを試してみることで、設計思想のフィット感を具体的に評価しましょう。